1900年には約1,500の醸造所がありましたが、1980年までにその数は80に減り、そのうちの6杜が市場シェアの80%を占めていました。現在恐らくその数は半減し、たった2社でシェアの70%を占めています。今や大企業が醸造から流通、マーケティングまで全てを取り仕切っています。これに、技術開発と急速な発展に資金提供する必要性が加わり、力と統制力を備えた大総合企業ができあがりました。このような企業が台頭してきたのは1980年代で、大手のレストランやホテルチェーン、クラブ、スポーツセンターなどアルコール飲料を販売できるところを次々と乗っ取っていきました。一醸造業者であったホイットブレッド(Whitbread)は今や英国随一のゴルフクラブ経営企業です。 アルコール業界の大手は、昔ながらの飲料製造販売だけでなく、各種事業を手掛けている大企業です。大半が世界を股にかけ、分野を越えて事業を展開している、超大企業グループの傘下にあります。 ここで重要なのは、アルコール業界の利害が絡むのは、単なるアルコール政策だけでなく、「アルコールをどう扱うか」、「パブの扱いをどうするか」という問題に集中するものではないということです。誰かが「アルコールをどう扱うか」という問題を(できれば一般的な形でも良いから解決策がどのようなものかについて或る程度の考えを持って)明確に意識していなければ、業界はそれを利用し、アルコール政策に対する本当の影響がアルコールに関する討論からではなく、全く別の方向から生じるよう企むのです。 これについては最近次のような例がありました。アルコール政策について議論した結果ではなく、観光事業を促進したいと云う望みから、子供がパブに入ることが初めて認められました、観光事業にはアルコール業界の利害が大きく絡んでいるのです。また不要な規則をできるだけ廃止するという政府の政策によって、バーに置く酒類のアルコール度数表示の義務がなくなりました。さらに新市場開拓を狙う職業訓練機関は、醸造業者に促され、アルコールを購入するには若すぎる16歳と17歳の未成年にもバーで働くことを認めるという提案を提出しました。 私が問題にしているのは、こまごました変化だけでなく、このような決定が、必ずしも一貫したアルコール政策の中で行われてはいないという事実なのです、英副こは一貫性のある包括的なアルコール政策がありません。その結果、あらゆる要請を認めて、潜在的なアルコールの害を考慮に入れずに大幅な変更が起こることもあり得ます。一方で、1993年に発表された過剰飲酒の削減を目的にした「国民の健康(Health of the Nation)」と呼ばれる保健政策文書があります。しかし実際は、1993年以来目安の量を越える飲酒が増えてきましたが、いまだにそれに対応する何のイニシアチブも取られていません。 以上をまとめると、国民はアルコールを肯定的に捉えるよう条件付けられている一方、アルコール業界は、各方面から政策に影響を与え、このような世論を更に強めるには十分強力で、多岐にわたる事業を展開しているということです。 単に世論を強化するだけではありません。政府閣僚や友人が、地方のアルコールカウンセラーと依存症者のクライエントの再飲酒問題について議論するよりも、ディナーのテーブルを囲んでビジネスマンと経済やビジネスヘの影響について議論する方が多いからといって、彼らが陰謀を企てているという説をたてる必要はありません。アルコールは議論の盛り上げ役にはなりますが、主役にはならないのです。
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